The Social Insight Updater

2011.4.13 update

甘ったれる女性

梶原公子(社会臨床学会運営委員)

「2位じゃダメなんでしょうか?」と官僚に詰め寄った蓮舫大臣は世の喝采を浴びた。 この女性大臣の活躍も、女性の社会進出が相当程度進んでいる象徴だろう。しかし、それは真実だろうか?
一方、ごくフツーの女性たちは、老いも若きも「かわいい女性」を目指して自分の外見磨きに余念がない。 こには男性に媚び、甘える意識が見え隠れする。
甘ったれる女性を生む日本社会とそこに潜む問題を、梶原公子氏が看破する。

「かわいい」を作る女たち

フランスに留学している姉(30歳)を訪ねた妹(26歳)が、姉の女友達だというフランス人を紹介された。女の子同士だから、当然男性の話になった。妹はそのフランス人の女の子に彼氏がいると聞いて、非常にびっくりしたという。
なぜかといえば、そのフランス人の女の子はとても地味な格好をしていて、とうてい彼氏がいるようには見えなかったというのだ。たしかに、フランス人の若い女の子たちは、非常に地味なファッションで、その多くは化粧もしていないしブランド品を身につけている子は皆無である。
日本から行った妹は、言うまでもないが日本の基準でフランスの同世代の女の子を見ていた。つまり、彼氏がいる子なら、すごくオシャレをして自分をよりキレイに見せようとしているし、いなければいないなりに男性にアピールしようと、やはり着飾っているに違いないと思っていたのである。
日本とフランスを比較しただけで全体のことは言えないが、ひとつ確実なのは、日本ほどオシャレや見た目年齢といった外見にこだわる女性が多い国はないのではないか。
日本の女性たちが目指しているのは「かわいい女の子」である。書店の店頭に並ぶ昨今の女性月刊誌の表紙には、10代後半向けならまだしも、40代をターゲットにした女性誌でさえ、「かわいい」の文字があふれている。「めちゃかわいい」「ピュアかわいい」なかには「大人かわいい」という意味不明なメッセージも見受けられる。
「かわいい」というのは、一般的には幼児やペットなど、他者に依存しなければ生きられない存在、「甘える」ことが当然視される存在の形容詞として用いられてきたはずだ。その形容詞を40歳に手の届く層をターゲットにした女性誌までが用いている。それは「甘え」を含んだ外見重視の風潮である。外見にこだわり、「かわいい」を作ろうとするのは、「甘ったれる女」「媚びる女」を表現し、アピールするためではないだろうか。

なぜ、日本の女性たちは「甘ったれた女」を目指すのか?
それはひとえに男性の要望に応えるためだと思われる。日本では自立した、毅然とした女性は敬遠される。泉直樹が行った結婚相手の条件としてもっとも重視するものは何か、というアンケートによると、男性の回答で最も多かったのが「性格」、次が「ルックス」だった。「収入」を重視するのはわずか7%に過ぎない(※1) 。 この結果から伺えることは、男性の意識は旧態依然を脱しておらず、女性はこのような保守的な男性の女性観に応えているという構図があることだ。
また、女性たちは、男性より劣位にいたほうが自分たち自身も得をするということを察知しているとも言えるだろう。 しかし、そこにはもっと大きな社会的問題が潜んでいるように思われる。
なぜフランスの若い女性たちは、男性に媚びるような着飾り方をしないのか。それは、日本のように男性に依存しなくても自立できる、自力で暮らしていける賃金が稼げる社会だからだと推測できる。 ひるがえって日本はどうか? 日本の女性は世界一オシャレである。と同時に、短大を含めた大学進学率も55・5%という高い教育水準を示している(※2) 。労働市場への参入も進み、労働人口に占める女性の割合は48・5%で、日本社会にとってもはやなくてはならない労働力である(※3) 。
ただ、これらの数字を見て、日本女性の社会進出は進んでいるというのは早計である。
女性の社会進出の度合いを示すGEM(ジェンダー・エンパワーメント指数)というものがある(※4) 。これは「市場労働への参加率」「企業管理職の割合」「学歴」「所得」の4項目について男女比を指数化したもので、100であれば男女平等となり、100未満で数字が小さくなるほど男女不平等を示す。2008年の日本のGEMは57・5。これは世界108カ国中58位、先進諸国中では最低の結果となっている。
男女共同参画基本法が成立した99年こそ38位だったものの、年々その順位は下落し続けているのである。 さらに「女性の社会進出が進んでいる」と言われるが、働いている女性の半数以上は非正規雇用だ(※5) 。一人ぐらしをする賃金水準は年収400万円といわれているが(※6) 、女性の該当者はわずか4.7%で、年収300万円でも該当者は15.4%しかいない(※7) 。

政治が作った「甘ったれ女性」

バブル時代に高校、大学教育を受けた女性たち、とくに成績優秀な女の子たちは、社会は平等になり、勉強して能力さえあればやりたい仕事に就き、キャリアアップも自分の意志でできるようになると、一種の有能感を植え付けられたように思う。
しかし、2000年代に入り日本経済が低成長時代を迎えると、若い女性たちの主婦願望が高くなっていく。彼女たちの多くは「このままずっと仕事をしていても展望が持ちにくいし、結婚と仕事の両立はハードルが高すぎる、であれば、結婚して男性に依存したほうがラク」と考えているのではないか。
一方では自分自身の幸せや夢を探して、仕事に生きがいを見出していきたいという女性もたしかにいる。しかし、「夫は外で働き、妻は主婦業に専念」に賛成する女性は全体で前回調査を上回る45%、29歳以下だと47・9%である(※8) 。女性たちの多くは、社会の浮き沈みに合わせ、自分の身の振り方を自在に変えているのである。
彼女たちが臨機応変に生き方を変えなければいけないのは、日本社会に根強く残る家父長制にその原因があると考えられる。家父長制というのは、男性を経済的に優位に立たせ、女性を劣位に置く制度である。経済的自立困難で劣位に立たされている女性は、男性に依存せざるを得ない。
2011年2月、夫の退職時に年金の変更を届け出なかった専業主婦の年金問題が大きなニュースになった。保険料を納めなくても年金が支給されるという救済策に、さすがに世の反発が強まったのだが・・。独身女性であれば救済されないのに、専業主婦なら未納期間があっても納めたことにするという不公平な政策は、未婚よりも既婚の専業主婦を優遇する政策だ。これは女性の心理を「結婚してしまった方がラク」という方向に誘導する誠にうまい方法だといえる。
国家財政が逼迫しているなかで、少しでも納税者が多いほうが望ましいのに、主婦優遇策をなぜ続けるのか。結局、男性優位の社会を崩したくないという理由に行き着いてしまう。
「103万円の壁」「130万円の壁」など、健康保険や年金の保険料を自ら払わなくてもその恩恵を受けられる政策が「女性は自立しなくてもよい」という土壌を作り、自立できないから「甘ったれる女性」を生んでいると考えられる。つまり女性たちは自分の意志で甘ったれているのではなく、女性が自活困難なこの国では家族政策や経済の浮き沈みにうまく同調しないと生きていけないから、何かに、誰かに媚びざるを得ないという現状があるのだ。

「婚活」なるものが流行っている。
婚活してもうまくいかないのは、女性は地位が低い分自分の外見を磨くのに、男性は相変わらず世界一女性へのサービスが苦手で、外見も構わないというミスマッチが指摘されている(※9) 。
しかし、男女ともに多くの場合婚活のゴールは家父長的標準家族=「主な稼ぎ手の父親と補助的な稼ぎ手の母親、子どもが2人」を作るというもので、意識は昔のままだ。言い換えれば、先に述べた家父長制にはまり込んでいくのが婚活であるが、若い世代にはそのような家族像を受け入れることに無理が生じてきている。
とくに女性は、高い教育水準を背景に小さいころから自分自身の将来像を考えなさい、と育てられてきた。たとえば30歳で結婚するとすれば、大学から10数年築いてきたキャリアの多くを捨てたりあきらめたりせざるを得ない。結婚によって劣位に立たされるのを簡単に受け入れられないのは当然だろう。
また、20歳代前半男性の非正規雇用率は4割を超え、ひとたび非正規になると安定雇用に変わるのは難しい(※10) 。とすると妻子を養っていける経済力をもっている男性は減っているといえる。
このような状況で、50代以上の親世代がうまくいったライフススタイルを、子ども世代も合わせること自体、無理がある。にもかかわらず親世代のやり方を踏襲しようとすれば、女性は誰かに依存するかとか、男性は誰を養うといったちぐはぐな話しになってしまう。
若年女性をめぐる経済・社会的状況、心理状態などをみると、「未婚女性が結婚に夢や希望を託せない社会」というのが浮かび上がってくる。

子ども手当が政治課題になっている。現金をばらまくのではなく、保育園をもっと作るべきだという議論もある。また、産休・育休明けにもとの仕事に戻れないという「育休切り」も問題になっている。公務員や教員、あるいは大手企業など恵まれた職場環境以外で働く女性たちの多くは、1年間もその仕事を退いた後に職場復帰するのは困難ではないか。労働市場では子育てで休業するのはリスクと考えられているからだ。
だから女性は結婚か仕事かの2択で悩み、結婚し、子どもができたら仕事を辞めなければいけないと思って悩む。この現状を変えない限り、結婚を躊躇する女性は増え続けるだろう。
ひと昔前であれば、結婚であっさり仕事を捨ててしまったのが、現在は仕事に生き甲斐を見出し、ずっと続けたいと考える女性が増えた。だから、若い女性で結婚か仕事かで悶々としたものを抱えている人は多いと思われる。が、彼女たちの心理状況は社会において表面化していないように思われる。
それではどのような政策であれば、女性は子どもを生み、育てやすいと考えるだろうか。
一つには、子育てをリスクではなく、「人生の楽しみ」と捉えられるような政策の必要性だ。例えば育休を男女でシェアする、育児休業を社会で保障することが考えられる。2週間、3週間程度の育休ではなく、半年から1年はとれるように、点や線で育児をするのではなく、面での子育てへのかかわりを保障することだ。企業にとって育休は生産性につながらないから、男女で1年も子育てのために休むのは考えられないことかもしれない。けれども、今回の震災は「行過ぎた効率主義が見直される契機だ」という声を聞く。子育てを保障することは、少子化防止という面ばかりではなく生産性、効率、成果主義とは違った価値観をもたらすのではないだろうか。
制度や政策といった外的要因を整え、女性が一人でも何とかくらせるよう女性自身が内発的決断をすれば「甘ったれ女性」は減少するのではないか。

女性に甘える「草食男子」?

さて、男性はどう振る舞っているのか? 90年代まで、一貫して男の子のモデルは「妻子を養う」父親だった。男は強くあり、稼げることという意識は強かった。
しかし、2000年代に入るとそのような父親モデルが崩れてきた。高校現場で教員をしている方によると、自分で一家を養いたくない、養えない、自分に依存してほしくないという男性が10代など若い世代増えてきたという。それを端的に表現したのが「草食男子」という言葉かもしれない。
「甘ったれた女性」を生むのは、男が作った日本社会の土壌にある。そんな社会に媚びて甘えざるを得ない女性は、いつまでも「かわいい女性」をアピールしなければならないわけだが、男性社会が「かわいい女性」を求め続けてきたという背景もある。
ところが「草食男子」の登場で、かわいい女性よりも、男に頼らない女性を望む男子が増えているという。むしろ女性に頼りたいと思っている。若い世代には、男はわんぱくで女はかわいく、というモデルが受け入れがたくなっているのかもしれない。

※本記事は取材を元に作成。

※1『オトコの婚活』2009 実業之日本社
※2文部科学省『平成21年度 学校基本調査報告』
※3総務省統計局『平成21年度 労働力調査』
※4国連開発計画UNDP、2008年版「人間開発指数」
※5総務省統計局 『平成19年 就業構造基本調査』
※6船橋恵子、宮本みち子 2008『雇用流動化のなかの家族』ミネルヴァ書房
※7厚生労働省 『平成20年 賃金構造統計基本調査』
※8国立社会保障・人口問題研究所 2008『全国家庭動向調査』
※9山田昌弘、白川桃子 2009『「婚活」の時代』ディスカヴァー携書
※10厚生労働省『平成22年 労働経済白書』

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プロフィール
梶原公子

梶原公子

元:
県立高校家庭科教員
現在:
社会臨床学会運営委員
専門:
社会臨床学
著作:
井上芳保編著『セックスという迷路』長崎出版2008(共著)
 
『自己実現シンドローム』長崎出版2008年(単著)
 
『女性が甘ったれるわけ』長崎出版2010年(単著)

 

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