The Social Insight Updater

2011.9.11 update

つながり

小川 克彦(慶應義塾大学 環境情報学部 教授)

もの凄いスピードで我々の生活(リアル)との関わりを深めてきた新しいつながり方(ネット)。 そのスピードにやや戸惑いを感じる人や、一昔前との変わりように感動を覚える人がいる一方、 「そもそも最初から当たり前だった」人=ネット・ネイティブが世の中を変え始めている?
そのつながり方のイマと可能性を示唆して頂く。

デジタルネイティブにとってネットはもはや「隠れ家」ではない

私が今接している学生達というのは、物心付いた時から最上位の技術を享受してきた世代。彼らには「前はこうだったけど、今はこういうことができて速くなってウレシイ」というようなことがない。つまり技術的な進歩や変化についてはあまり感激がないように見える。
僕らの世代はそもそもコンピューターが身近に無い時代に育った。言い替えれば「アクセス速度が速くなった!」「大容量メモリが安くなった!」etc.と、その時代のトレンドとともに進化する技術を体験することができた。だからそんな進化を知らない世代とはスタート地点がまったく違う……最も大きく感じるのがこのギャップだ。

ネットワークの授業の中で「ネットワークがあることで仕事のやり方、恋愛事情、生活がどう変化したか」をテーマにディスカッションをやっているのだが、そこで出てきた意見に「自分はネットとリアルは区別していない」というものがあった。
「リアル世界の補助道具としてネット世界のサービスがあるというのとは、真逆の方向。つまりリアル世界とネット世界の差異はなくなりリアルを包括する存在としてネット世界があるのではないか。リアルやネットというコトバの概念自体がなくなってしまうことこそが未来の姿なのではないか」。

僕らにとって、それまでの生活に新しく加わったネットは未開拓の新天地だった。2つの世界があって、ネットは逃げ込んでいける世界。いわば隠れ家みたいな場所。それがひとつの楽しみでもあった。
しかし現在は日常にネットが大きく関わり過ぎてきていて、彼らには別の場所としての「ネットの世界」というものはない。完全にツールになっている。そう、僕らの世代が電話を単に「便利な物」として捉えていた感覚と同じだ。ネットが「第三の情報手段」とか思ってる人なんていないんじゃないだろうか。
2ちゃんやニコ動はオタクの世界が中心だけれど、もともとオタクは自分の世界を持っていたわけで、それがネット上に現れたのが2ちゃんやニコ動というだけ。

現在Twitterをメインで使っている学生が言うには、メールを使い始めてmixiに行って今はTwitter、という流れ。それは僕らが電話を便利なツールとして捉えていた感覚と同じだと思う。僕らの世代にとってはネットは第三の世界だったけど、もはや隠れ場所ではない。そういう意味では「オフ会」なんて概念も普通の人にはあまりないのではないか。極端に言えば、リアルに居場所がない人はネットにも居場所がない。……オタクは別だけどね。

さて、リアル前提のつながるためのツールであるとすれば、より新しい物の優先度が高くなるのは当然だろう。使用頻度で見ればもっとも先にくるのがTwitter。携帯メールはちょっと別で、おはようメッセージとかの用途。なにしろ最近ではメールがウザくなってきたと感じる学生は多くて、それは返信への義務感が負担になっているからだろう。
その点Twitterは別に答えなくていいから縛られず都合が良い。むしろなかなかメールを見てくれない人に向けてTwitter上で「早くメール見ろ!」と言ったりもするし。

ネットがリアルを包含すると「リア充」の定義が変わる?

このようにネットは既にリアルの延長であり、どんどんリアルを包含するようになってくる……とすれば、いわゆる「リア充」の定義はどう考えるべきなのか?それに関して、学生に「あなたはリア充か?  その理由は?」というアンケートを取ったところ(2010年春)、世間の定義とはちょっと違う捉え方も出てきた。

まず一般的なリア充の定義である「つながりのリア充」。これは「彼氏彼女、仲間がたくさんいる」「サークル、バイト、インターン、研究会、グルワ、お泊まり会、旅行などやることがたくさんある」「他人から見て輝いている」などの理由を挙げた層で、全体の47%。
もうひとつは、「ひとりで落ち着いて本を読んだり、好きな音楽を聴いたり、散歩したり、時には一人旅にでる(…からリア充)」という「やすらぎのリア充」で25%。これはリアルの中で自分の心が充実していればリア充と言えるのではないか、という考え方である。
ちなみに「非リア」と回答したのは26%で、その理由は「スイーツ(お菓子をスイーツと呼ぶような女性を意味するネットスラング)女性とは話したことがない」「アニメ、ゲーム好きのオタク趣味がある」等だった。

学生たちの半数近くはリアルのつながりを大切に考えていることが分かった。
では、そんなつながりが期待できる場所とはどこか?  を探るべく、次に「好きな場所とその理由」を聞いてみた。
結果は、1位「自分の部屋」51%、2位「図書館やサークル部屋のある学校」16%、3位「カフェやレストラン」6%。理由としてあげられたのは「平穏である」とか「プライバシーが守れる」19%、「活気がある」11%、「仲間がいる」10%などだった。
意外にもこの自宅への愛着は「やすらぎ」よりも「つながり」のリア充に多い。安心して帰れることのできる自宅があるからこそ、外で人とつながれるのだと言う。

ネット世界が偶然のつながりを求めてますます広がっていくのに対し、リアル世界では仲間内のつながりに閉じてしまい、安心できる場所も少ない……。ネットが世界を大きく包み込むことによって、リアル世界はどんどん縮んでしまっているのではないかとさえ思えてくる。

※本記事は取材を元に「The Social Insight Updater」編集部が作成しました。

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プロフィール
小川 克彦

小川 克彦

現在:
慶應義塾大学 環境情報学部 教授
専門:
情報社会システム(コミュニケーションサービス、ネット社会論、ヒューマンインタフェース、メディアデザイン、情報検索)
著書:
『デジタルな生活―ITがデザインする空間と意識』NTT出版 2006
 
『つながり進化論―ネット世代はなぜリア充を求めるのか』中公新書 2011

 

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